特別対談澤田 龍一×尾形 好宣

人と人との巡り合いがもたらしたオリジナルDACとスイッチングアンプ

SACDプレーヤー SA-12とプリメインアンプ PM-12に搭載されているコア技術は、フラグシップモデルSA-10、PM-10から受け継いでいます。

SA-12には、マランツオリジナルDACの「MMM」が、そしてPM-12にはスイッチングアンプが、それぞれ搭載されています。
どちらも、他社に搭載例が少ない、ユニークなテクノロジーと言えます。

当たり前のことですが、珍しい技術だからと言って、採用するだけで音が良くなるわけではありません。
その技術を使いこなし、マランツが考える最高の音に仕上げるには、音を知り尽くした “サウンドマネージャー” が、一つ一つ丹精を込めて仕上げる必要があります。

今回はマランツの現サウンドマネージャーである尾形好宣と、元サウンドマネージャーで現D&Mシニアサウンドマネージャーである澤田龍一の両名が対談。
開発にまつわる裏話を語ってくれました。

SACDプレーヤーについて

尾形:まずは、マランツオリジナルのDACについて詳しく紹介していきましょう。
DACを開発したのは、澤田とは旧知の間柄のライナー・フィンク(Rainer Finck)です。

澤田:そうです。いま彼は、マランツのEUリージョンの音質責任者を務めていますが、もともとはオランダのフィリップス アプリケーションラボにいたエンジニアなんですね。

フィリップスといえば、1980年代後半にはDAC開発の先頭に立っていた存在です。“DAC7” の愛称で親しまれたビットストリームDAC「TDA1547」なども彼が手がけました。

その後フィリップスがハイファイオーディオから撤退していくとき、彼がオーディオマニアということもあり、マランツに移籍しました。
それからは「CD-7」のデジタルフィルター部の開発なども行いました。

オリジナルDAC 開発者

Rainer Finck(ライナー・フィンク)

Rainer Finck(ライナー・フィンク)

元オランダフィリップス
アプリケーションラボ所属

  • ビットストリームDACの開発担当
    (DAC7 etc.)
  • CD-7デジタルフィルターの開発者
  • EU リージョンの音質担当
  • DACアルゴリズム
  • Marantzサウンド
対談1

尾形:今回のDACにしても、実ははじめから「オリジナルDACを作ろう」と決めていたわけではなかったですよね。

澤田:そうです。マランツはCD-7以来、デジタルフィルターについてずっと研究を続けていたんですが、その延長でSA-10、SA-12に搭載されたオリジナルDAC「MMM」をフィンクが作り始めました。
ただ開発の当初は、D/A変換部だけは汎用DAC を使っていたんですね。

ところがそのうち、「最後までオリジナルで作ろう」とフィンクが言い始めたんです。
最初は「そんなことできるの?」と。理屈で言ったら作れますが、性能をしっかり確保できるかが難しいんです。

尾形:それで結局、1年、2年遅れることになったんですが(笑)。
ただ結果的には、最初から最後までフルオリジナルという、世界的にも珍しいDACができあがりました。

対談2
SA-12

澤田:そもそも、オリジナルDACはSA-10のために作ったものではないんです。
マランツサウンドのステージを上げようと色々試していたら、たまたまSA-10の構想に合致するオリジナルDACが巡ってきたと。

尾形:そして、今回そのオリジナルDACが、SA-12にも搭載されたというわけですね。
使っているパーツに多少の違いはありますが、基本的にSA-10とSA-12のDACは同じものです。

DACをオリジナルで作ること自体、かなり珍しいことですが、マランツのサウンドを分かっている人間がDAC開発を手がけたことで、良いものができたと思います。

澤田:あらためて昔のことを思い返してみると、彼がマランツに移ってきたというのも、実に運命的なんですね。

私が運命的だと思うのは、彼が最初に手がけたD/AコンバーターがビットストリームDAC、いわゆる1ビットDACだったということなんです。
1ビットDACというものが世に出てくるときに、ちょうど彼が開発チームに加わったわけですね。

彼が今回のオリジナルDAC「MMM」でやったことも、マルチビットで入ってきた信号をすべて1ビットに変換して、アナログに変換するというものです。

彼はキャリアの初めで1ビットDACに関わり、そして今回フルディスクリートのDACを開発したわけですが、私に言わせると、ここに行き着くためにいたようなものなんです(笑)。

あと面白いのは、1ビットDACには最初課題も多くて、それを解決するのに、普通エンジニアは理論的な見地から解決を図ろうとするんです。
ところが彼はオーディオマニアだから、オーディオ的な見地でDACを設計するんです。それで出来たのがDAC7ですね。

DAC7とは何かというと、あれはセパレートDACですね。
デジタルフィルターのパートとD/A変換をするパートを分け、それぞれに最適な回路を組む。その発想は、今回のオリジナルDACと全く一緒なんです。

ただし今回のオリジナルDACは、もちろん昔のDAC7とは違います。
なにしろ信号処理能力がケタ違いに上がっていますから。現代の技術で、当初から彼が持っていた着想を具体化したらどうなるか。
それをやったのが今回のオリジナルDACと言えるのではないでしょうか。

尾形:そして、そこにちょうどSA-10の構想が巡り会ったということなんですね。

澤田:通常の開発スキームでは、こんなことはあり得ません。
オーディオ全盛の時代だったらともかく、今こんなことが実現する会社は、マランツのほかにはないでしょう。

アンプについて

尾形:次にPM-12に搭載するアンプについて話していきましょう。
マランツのプリメインアンプでスイッチングアンプを搭載したのは「HD-AMP1」が初めてでしたが、高級アンプではPM-10が初めてでした。

澤田:スイッチングアンプを採用した背景には、従来のアナログアンプの技術は成熟して、もう大きなジャンプはないというのが根底にありました。
この技術の延長線上で性能をこれ以上良くしようと思ったら、大きくて重くて、電気がたくさん必要で発熱もすごい、そういうものを作らなければなりませんが、プリメインアンプでそうはいきません。
新しいソリューションにチャレンジしなければならないと考えました。

それで色々と考えているときに、スイッチングアンプならできるかもしれないということになったわけです。

ただ実は、もう20年ほど前からスイッチングアンプを使うというのは頭の隅にはあったんですね。
我々が開発した製品で、過去にもスイッチングアンプを搭載したものがありました。
たとえばB&Wのサブウーファーの背中にしょったアンプ、1kWの出力が出ますが、2003年頃でしょうか、こういうものがあるので、ある程度の感触、手応えはあったんです。

PM-10とPM-12に搭載しているスイッチングアンプはHypex社製ですが、このアンプを設計したのはブルーノ・プッツェイという人で、もともとフィリップスのITCLというところにいたんですが、そこでスイッチングアンプやスイッチング電源を手がけていました。
その当時は我々マランツもフィリップスグループでしたから、一緒に仕事をしていました。
B&Wのサブウーファー用に供給したりして、スイッチングアンプに対しては、当時からある程度いけそうだ、という感触は得ていました。

で、このブルーノさんが、フィリップスがハイファイオーディオから手を引いたときに、Hypex社に移籍したんですね。

いったん連絡も途絶えていたんですが、あるとき「ブルーノがスイッチングアンプをやってるよ」と連絡が来て、「あいつ(この業界で)生きてたの?」なんて言って(笑)。それを仲介してくれたのは、オリジナルDACを作ったライナー・フィンクだったんです。

尾形:ここにも人と人の巡り合わせがあったということですね。

澤田:彼らは同じ元フィリップスで、つながってますからね。
で、そのHypex社のモジュールを使ってHD-AMP1を作って、これはいけるぞ、と。そこからPM-10につながっていくわけです。

あともう一点。フィリップスが所有していたポリグラム系のクラシックレーベルとは、ずっと連絡を取っているんですが、彼らが録音時のモニターに使っているアンプは、10年以上前からスイッチングアンプなんですね。彼らはもうとっくに、スイッチングアンプに対するアレルギーなんてないわけです。
これも我々がスイッチングアンプ採用に踏み切れた一つの背景でもあります。

PM-12

尾形:PM-10に搭載してから、今回PM-12に取り組んだわけですが、かなり設計には苦労しました。というのも、新たなチャレンジを盛り込んだからです。

澤田:確かに大変そうでしたね、傍から見ていても。アンプモジュールとスピーカーターミナルを直づけにしたんだよね?

尾形:はい。PM-10は内部がバランス構成なので、4つのアンプモジュールを搭載しています。
パーツの配置の関係上、アンプモジュールからはターミナルまでは配線を引き回さなければなりませんでした。

ただ、今回のPM-12はバランス構成ではないので、アンプモジュールが2つで済みます。それであれば、アンプモジュールとターミナルを直づけできるのではないかと考えました。そうすれば信号経路を限りなくゼロにでき、音が良くなります。

澤田:だけど、それは簡単なことではないよね。

尾形:そうなんです。アンプモジュールからは多数のピンが出ていて、それを水平方向にターミナルへ挿し込む必要があります。
一方で、アンプモジュールはきっちり固定しなければいけないので、上から垂直方向に、ネジでしっかり押さえます。
水平方向の差し込みと垂直方向の固定を両立するのは大変でした。

澤田:水平方向をピッタリ合わせるといっても、ほかの部分も関係してくるから誤差が出るわけです。それを吸収しないといけません。

尾形:誤差を吸収するためにネジ穴を大きくすると、今度はしっかり固定されず、音が悪くなります。
こういう、かなり難しい構造にトライしたわけですが、今回は機構設計のエンジニアががんばってくれて、なんとか実現できました。
これを実現するために、実に5つもの新しい治具を導入したと聞きました。

澤田:この部分だけに5つの治具なんて、普通はあり得ないよね(笑)。

尾形:今回の機構設計と生産技術は、若いエンジニアが多かったので、こういうチャレンジにも果敢に取り組んでくれたのだと思います。

SA-12

澤田:アンプに取り付けるヒートシンクも、何回も作り直していたのを見ていました。

尾形:はい。ここも音が大きく変わるポイントですので。何度も形状を微調整していって、結局4個目でしょうか、最終的に「これでいこう」となったのは。

あとはパワーアンプ部の電源も、プリ部とは完全に別のものを搭載したのですが、このヒートシンクや、その下の熱を伝えるゲル状の物質のサイズなどにもこだわりました。

澤田:このゲル状シートの処理は上手くやったなあ、と感心しましたよ。

尾形:Hypex社のスイッチングアンプを搭載したからといって、すぐに良い音が出せるわけではないんですね。
このモジュールを使いこなすノウハウがあって、はじめてそのポテンシャルを引き出せるわけです。

いかがでしたでしょうか。
オリジナルDACの開発とスイッチングアンプの採用、ともに人と人との「巡り会い」があったこと、さらにそれらのデバイスを使いこなし、マランツサウンドを実現するため、サウンドマネージャーやエンジニアが奮闘したことがご理解頂けたかと思います。
熱い思いがこもったマランツの12シリーズと10シリーズを、ぜひご体感ください。

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