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2018東京インターナショナルオーディオショーレポート

「マランツブースの作り方」


 

ハイエンドオーディオの祭典「2018東京インターナショナルオーディオショウ」が
去る11月16日~18日の3日間、東京国際フォーラムで開催されました。
今回のマランツブログでは元マランツサウンドマネージャー、
現D&M Holdingsシニアサウンドマネージャーの澤田龍一が
展示会におけるマランツブースの音場づくりのこだわりについて語ります。

 



D&M Holdingsシニアサウンドマネージャー 澤田龍一

 

オーディオ機材より、音響調整用資材のほうがはるかに多い理由

 

●今回のマランツブログでは東京インターナショナルオーディオショウ(TIAS)のマランツブースの設営についてうかがいます。マランツはこのようなイベントでの会場作りに非常に多くの時間と労力を使っています。どうしてでしょうか。

澤田:展示する部屋の響き、いわゆるルームアコースティックを良くしたいからです。優れたオーディオ機器を持ち込んでもそもそも部屋の響きがダメなら、どうにもなりません。

そのために私たちは音場作りから行うのです。まず、望ましい音響空間を先に作る。それできてからオーディオ機器のセッティングです。もちろん手間もエネルギーもかかりますが、マランツとしては、それをやらないと意味がありません。


●いつごろからこのような会場作りを行っているのでしょうか。

澤田:私たちが会場で音場作りをするようになったのは1990年代の後半ぐらいからです。その頃は便利な市販品なんてありませんから、私たちで吸音用のクロスや反射板を作って持ち込んでいたのです。最近でこそ他のブランドのブースでも市販の反射板や吸音板を使っていますが、当時は「なんでこんなことをするんだ」ってみんなに驚かれました。

でも、私たちからすると、こうした展示会場の音響状況は極めて悪いですから、まずルームアコースティックを整えるところから始めるのは当たり前です。


●設営の様子を見て驚きました。展示機材より音場作りのための資材のほうがはるかに多いですね。

澤田:圧倒的に音場作りの資材のほうが多いです(笑)。なぜこうした大がかりなことを始めたかと言いますと、かつてマランツがレコード会社を所有するフィリップスの傘下だったころ、クラシックのレコーディングを見る機会がたくさんありました。オーケストラなどを録る場合、コンサートホールを使うことがあります。

そんな時にはレコーディング機器を置くようなモニタールームはありませんから、楽屋や道具部屋、階段下の空間みたいな、音響状況が悪い場所に録音機器を設営することになります。そんな場所ではたいてい音がビンビン跳ね返りますから、レコーディングエンジニアはガムテープで毛布を吊って響きを止めたり、ベニアで作った簡単な反射板で響きを加えたりして上手に音場を作るんですね。

それを見て、これは展示会でもやるべきだと思ったのです。東京インターナショナルオーディオショウのような場合、試聴する場所は会議室だったりして、音響状況は悪いですから、彼らから学んだ音場作りのノウハウを生かすようになったのです。


 

帆布で壁を覆って響きを止め、オリジナルの大型反射板で響きを調整する


●具体的にはどのように音場を作っていくのでしょうか。

澤田:まず音を吸収するために壁の前に骨組みを立てて帆布を垂らしていきます。壁を帆布で覆ってしまうわけですが、この帆布は11号という厚くて重い布なので、かなり低い音域まで響きを抑えることができます。これを全面に垂らすだけでこの部屋の響きはほとんど無くなり、デッドになるんです。

この状態は音としては正確ですが直接音だけしか聴こえないので、音がつまらないものになってしまいます。そこで反射板を置いて必要な響きを加えていきます。



↑会議室の壁面の前に骨組みを建て、そこに帆布を垂らして壁を覆っていく


●帆布の前に何カ所か設置する大型の反射板がすごいです。これはオリジナルなのでしょうか。

澤田:この反射板は私が設計してオリジナルで制作したもので、1998年頃から改良を加えながら使い続けています。当初は、合板に芝居の大道具に使う岩肌のようにグレーの紙を揉み貼りしていましたが、使っているうちにどうしても破れてしまうので、現在は様々な大きさの木材をカットしてランダムに貼っています。

これで中高域は適度に拡散して反射させることができます。裏面は厚さ20センチくらいのウレタンを楔型にカットして貼っています。これは低音トラップといって余分な低音をカットする働きをします。今回の会場では反射板を9組ほど使っています。



↑マランツが独自に制作した反射板。外側は様々な大きさの木材がランダムに配置されており、内側は厚さ20センチ程度の楔型にカットされた分厚いウレタンが貼られている。



↑反射板は山型に組み合わされて会場の決められた場所に設置される


●客席から見て正面にあるオーディオ機器の裏側に設置された反射板はどういうものでしょうか。

澤田:あのマス目がいっぱいある反射板は、音響環境が整った上で、より細かく定位を決めたりするのに使うものです。もともとヨーロッパのレコーディングスタジオなどによく設置されている有名な反射板で、8行×8列=64マスに区切られたものが1ユニットになっており、今回はそれを縦に4つ重ねています。

マスは音響的な反射が計算されていて、それぞれ深さが異なっているんですよ。買うとすごく高いものなので、私は大工仕事をして自作しました(笑)。


 

●マスのある反射板にはどんな効果があるのでしょうか。

澤田:センター定位の向上とサウンドステージの上方向への拡張です。普通にスピーカーを鳴らした場合、水平方向のサウンドステージはわりあい広いのですが、高さはスピーカーのユニットぐらいの高さで鳴っているわけですよ。ところがあの反射板のユニットを積むと聴感上のサウンドステージが積んだ高さまで上がります。

たとえば今4個積んでありますが、1個ずつ降ろすと、今できているサウンドステージがだんだん低くなっていくのがわかります。


↓定点でマランツブースの設営を撮影した様子

1. 作業開始時。会場となる会議室に資材を入れたばかりの状態
2. まず壁面に帆布を垂らすための骨組みを全ての壁の前に立てる
3. 骨組みに帆布を垂らしていく。帆布の裏側にはダンボールが置かれるが、これも吸音効果を発揮する
4. 反射板を組み立て、決められた場所に設置する 



5. 会場が仕上がったところで展示機材のセットアップをはじめる
6. 展示機材の電源、スピーカーケーブルなどの結線を行う
7. 音出しができたら、サウンドチューニングが開始される
8. 椅子を並べて会場作りを仕上げる傍らで、細部にわたるサウンドチェックは続けられる

 

マランツはわずかな違いまで音に出るセンシティブなオーディオ機器


●今回設営の様子を見せていただきましたが、とにかく展示機材のセットアップまでが大変な手間ですね。

澤田:マランツはいわゆる「味」で勝負するブランドではありません。またB&Wのスピーカーはロンドンのアビーロードスタジオでも使われているれっきとしたスタジオモニターです。ですから、我々の場合、部屋の音響に強いキャラクターがあっては困るのです。

響きが多すぎるとか、フラッターエコーなどの癖のある響きを持った会場ではマランツがデモを行う意味がありません。ですから可能な限り労力をかけて、いわば擬似的な「スタジオ空間」を作り上げるのです。


 

●よく見ると、壁面などの大がかりな部分だけでなくスピーカーケーブルを浮かせるなど、細かい部分にも手がかかっていますね。

澤田:それはマランツのアンプやプレーヤーの性格にも関わっています。私たちの機器は非常にデリケートなんですね。たとえば置き方、電源、ケーブル、端子の状況などに敏感に反応します。

そういうことにあまり左右されずに、常に同じ音を出すタイプの機器もありますが、マランツの製品はデリケートなので、細かい部分にも気を使わざるを得ません。たとえば我々は端子をピカピカに磨き上げています。電源タップのプラグを刺す部分も同じようにピカピカにしています。

今日のような展示会の時には試聴室で使っているものだけではなく、営業がイベントなどで使っているケーブルもありますから必ず磨きます。端子が汚れていると音も汚れてしまうんです。ケーブルも床には置かず必ず浮かせています。これは床の振動などが音に影響することを防ぐためです。

浮かせるために使っているのは丸い木材の棒、これは柾目の檜の棒ですが、それを切ったものを使っています。これも材質で音が変わってくるのです。

 

●これだけオーディオ的に空間をしっかりとチューニングした環境でマランツの製品を試聴できる機会は貴重ですね。

澤田:はい。マランツの製品はちゃんとした環境で聴いてもらいたいと思っています。お陰様でマランツブースはイベントでも大変人気がありますが、人は吸音材と同じく音を吸いますので、お客様があまり多いとまともな音になりません。ですから1日に最大2回、きちんとした音をお聞かせしたい評論家の先生の講演はチケット制として、全員着席できる人数でご試聴いただいています。

そこが一番正確にマランツの製品の音が聴ける時間帯ですね。お客様もそのあたりはすでにご存じで、TIASでも毎朝開場するとチケットがすぐに無くなってしまいます。


●なるほど。マランツにおけるブースのこだわりが良くわかりました。今日はありがとうございました。


↑完成したマランツブース



↑ マランツブースでの傅 信幸先生の試聴会はチケット制で開催された


2018東京インターナショナルオーディオショーでのマランツブースに関する澤田龍一のインタビューはいかがだったでしょうか。「純粋さの追求」というサウンドフィロソフィーは、はマランツの製品作りだけでなく、イベントでの会場作りにおいても徹底されています。次回の東京インターナショナルオーディオショウのマランツブースでは、ぜひ会場の様子もじっくりとごらんください。

2018年12月4日

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