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マランツとB&Wの26年にわたる
リレーションシップを振り返る(後編)

 


D&M Holdingsシニアサウンドマネージャー 澤田龍一


マランツが世界的なスピーカーメーカーB&Wの日本における販売代理店となったのは1993年。
以来26年に亘ってマランツとB&Wは緊密なリレーションシップを築いてきました。
「B&Wとのリレーションシップを振り返る」の後編は、
マランツとB&Wが実際にどんなコラボレーションを重ねてきたのか、について
D&M Holdingsシニアサウンドマネージャーの澤田龍一が語ります。

前編(マランツとB&Wの日本における提携が行われるところまで)はこちら

 


 

B&Wの販売台数が2年で10倍になった

 

●そんな紆余曲折を経て1993年からマランツとB&Wとの提携関係が始まったわけですが、提携当初はどんな感じだったのでしょうか。

澤田:まず輸入代理店が日本マランツに変わったことで起きたことは、B&Wの販売台数の著しい増加です。日本マランツになった最初の2年でなんと10倍になりました。それまでのB&W製品の日本における販売戦略は、販売店の数を絞って価格を維持する方針でした。
しかし私たちはマランツを販売している全ての販路でB&Wを販売し、価格も海外の価格からすると高めの設定でしたので、私たちが考える適正な価格に値下げしました。おおよそ25%ぐらい下げたでしょうか。

●とはいえ、2年で10倍はすごいですね。

澤田: B&Wが売れた理由は、単に値下げや販売チャンネルの見直しだけではありませんでした。当時B&Wに関してよく言われていたのは「B&Wは良いスピーカーだが、力のあるアンプでないとドライブできない、アンプを選ぶスピーカーだ。」ということ。
でも、これはある種の先入観だったんです。日本マランツがB&Wを販売するようになって、実際にマランツ製品と組み合わせてみると、さほど高価ではないアンプでも、そこそこドライブできるようになりました。ですから私たちが販売力を持っていただけではなく、マランツとB&Wの製品の相乗効果もあったのです。
それでマランツとB&Wとの組み合わせによるコンポーネントシステムの販売も行いました。これは私がネーミングしたんですが、「ミュージック・ダイアログ」というシステムでした。


↑ミュージック・ダイアログのカタログ(1997年当時のもの) ここではマランツのCDプレーヤーCD-17D、プリメインアンプPM-17に、B&WのスピーカーCDM-1が組み合わされている。


●「ミュージック・ダイアログ」とはどういうシステムだったのですか。

澤田:これはハイレベルなオーディオシステムとして、B&Wのスピーカーとマランツのコンポーネントをシステム提案するというブランド・コラボレーションでした。それまでは同じブランドのコンポーネントでシステムを提案することはありましたが、それらはみんな自社の製品だったわけですから、ユーザーから見たら面白くないじゃないですか。ところがスピーカーはB&W、アンプはマランツという組み合わせは、ユーザーにとって、とても新鮮な提案でした。

●「ミュージック・ダイアログ」のようなシステム提案は、買う人にとって便利ですね。

澤田:オーディオマニアなら自分でいろいろ考えてアンプやスピーカーを選ぶのが楽しいわけですが、あまりオーディオに詳しくない方にとっては、このようなシステムは買いやすいんですよ。実際この組み合わせなら、私たちが保証しているわけで、いい音がちゃんと出ますから。

 

品質管理のノウハウを提供し、時にはパーツの調達もサポート

 

●マランツとB&Wが提携関係になって今年で26年経ちました。これほど長期間にわたって提携関係が続いている理由はなんでしょうか。

澤田:やはりお互いにメリットがあり、しかも切磋琢磨できる関係だからだと思います。日本マランツ(ディーアンドエム ホールディングス)は日本での販売代理店ではありますが、単純に仕入れて売るだけの代理店とは、品質チェックやフィードバックのレベルが全く違います。特に品質管理ですね。
たとえばB&W製品の信頼性を高めるために徹底した受入検査を行い、問題点をB&Wにフィードバックしました。その結果B&Wの要請で品質管理や受け入れ検査の担当者をイギリスに送り、品質管理の指導も行っています。それはB&Wの品質管理に大きな影響を与えたと思います。また製品上の具体的な例では、私たちが販売代理店を引き継いた頃の800シリーズのスピーカー端子板はボンドによる接着でした。彼らが想定していたスピーカーケーブルは、平行ビニール線レベルだったんです。
しかし、その端子に太くて重い、ガス管みたいなスピーカーケーブルを接続すると重さで端子板が外れてしまう。それで私たちが要望して、ネジを使用した強固な取り付け方に変えてもらいました。

●そのあたりはお互いにオーディオメーカーだからこそのリレーションだと思います。

澤田:マランツのオーディオに対する見識と分析力はB&Wも認めるところでしたので、実はB&W側から幾度となく「どんなスピーカーを作れば売れるだろうか」と助言を求められました。でも、私たちは直接的な商品企画の助言は控えてきました。というのも、私たちには自身のサウンドポリシーがあり、スピーカーに対する考え方があります。彼らがそれを無条件に受け入れたら、B&Wの製品ではなくなってしまうわけです。ですから私たちは商品企画には、ほとんど口を出しませんでした。
ただし新製品については、こちらで徹底した測定・分析を行い容赦のないレポートを出します。また私たちがキャッチしたオーディオ業界の動向に関する情報や分析もB&Wに伝え、将来的にスピーカーに要求されるであろうことを的確に示唆しました。そうした積み重ねから相互の信頼関係が築かれ、強固になっていきました。

●次世代オーディオフォーマットへの対応についてはどうだったんでしょうか。

澤田:飛躍的に進化したNautilus 800シリーズが登場した1998年は、スーパーオーディオCDやDVDオーディオが登場した年でもありました。B&Wはそういった次世代オーディオフォーマットについて、あまり認識していませんでした。そこで世界に3台しかなかったアーリーステージのスーパーオーディオCDプレーヤー試作機の1台をB&Wに送り、来るべき次世代フォーマットへの対応についてディスカッションしました。当初、B&Wはトゥイーターの超高域特性を格別重要視していませんでした。
なぜならフォーマットが100kHzにも及ぶスペックをうたっていても、現場では、そこまで収録できるマイクが使われていないことや、再生機器には50kHzのローパスフィルターを推奨していたことなどが理由です。私は、これも一つの見識ではあると思いました。

●現実的対応ということでしょうか。

澤田:その後、B&Wからの要望で、検討用に他社の市販スーパートゥイーターや、ベリリウムドーム振動板などを入手して送りました。そしてB&Wは5年後の800Dシリーズで、究極の振動板素材であるダイヤモンドドームを採用し、一気にワイドレンジ化をはかりました。ダイヤモンド振動板が量産モデルに搭載されるのは初めてのことでした。

●サンプルを送った成果があったわけですね。

澤田:しかし800Dシリーズは、上位 4つのモデル(800D/801D/802D/803D)にダイヤモンドドームを搭載していましたが、下位のモデル(803S/804S/805S)はアルミドームのままだったんです。なぜみんなダイヤモンドドームにしなかったかというと、とても高価だったからです。805の場合、ダイヤモンドドームにするとセットの値段が倍以上になってしまう。それでマーケット的にB&Wは躊躇して、803はどっちつかずで両方、804と805はアルミドームのままにしたんですね。
それに対して私はものすごく不満だった。なぜかというと、日本は小型2ウェイの高級モデルというのはとても大事なんです。上位モデルでダイヤモンドを使ったのなら、価格が倍になろうが下位にも絶対使うべきだ・・・と。それで、そういうものを作ってくれと言ったんじゃなくて、東京インターナショナルオーディオショウで、805Sのトゥイーターをダイヤモンドドームと付け替えて比較デモをしたんです。

●TIASで勝手にカスタマイズしたんですか。

澤田:そう。それぞれのドームトゥイーターの特性が、超高域を除けばほとんど同じで、取り替えても特性上は問題ないことを事前に確認していましたので、予めダイヤモンドドームに付け替えておいた805Sとアルミドームのままのものを用意して、傅信幸先生の講演時間に比較デモを行いました。そこには、B&Wのプロダクトマネージャーのマイク・ゴフが、新800シリーズの紹介のために来ていたんです。
そして、5年後の800 Diamondシリーズでは、全モデルがダイヤモンドドーム搭載となっていました。本当は彼も最初から全てのモデルをダイヤモンドでやりたかった。ところが営業的には価格が倍以上になることに躊躇するわけですよ。だから「日本がこのデモをやったから実現した!」と後で言ってくれましたけど、ショウではブスーっとしてましたよ。モデルに対して極端な意思表示をしたのはその時くらいですね。

●B&Wへ提供しているものは、製品の分析レポートや情報共有だけですか。

澤田:いいえ、実際にマランツからB&Wに部品を送ったこともあります。だいたいB&Wはスピーカーを作るのは得意ですが、エレクトロニクスはあまり得意じゃないんですよ(笑)。マランツからパーツを供給してサポートしたこともありました。
たとえば1993年のオリジナルノーチラスのチャンネルデバイダーに使用されていた高音質電解コンデンサーと高精度フィルムコンデンサーは、当初はマランツが供給したものでした。またノーチラス800シリーズ/CDMシリーズ用サブウーファーのアンプユニットも日本マランツが製造して供給していました。今でも彼らが持っていない情報や不得意なところについては、求められればサポートしています。


↑非常にユニークなフォルムのオリジナルノーチラス。この製品に付属するチャンネルデバイダーに使用されるコンデンサーの一部はマランツが供給した。

 

マランツが得たものは、世界最高の性能を持つ
スピーカーに応えるアンプ作り

 

●マランツ側としては、B&Wとのコラボレーションでどんなものを得たのでしょうか。

澤田:B&Wのパフォーマンスは当時から非常に高いものでしたから、マランツの製品開発用のリファレンススピーカーをB&Wに入れ替えました。そしてB&Wのスピーカーを十分に鳴らすためにマランツのアンプの技術的な革新を行っていきました。具体的に言えば、今マランツがアンプのカタログなどで当たり前のように謳っている「左右対称レイアウト」、「電流帰還型アンプ」、「超高域におけるセパレーション」、「瞬時電流供給能力」などは、B&Wのスピーカーが開発の動機になっています。

●それらはB&Wのリファレンススピーカーがあったから、開発された技術といえるのでしょうか。

澤田:そうです。電流帰還型アンプはMatrix 801S3で検討し、そして可聴範囲を超える超高域におけるクロストークの重要性はノーチラスの時に私が提案しました。
また瞬時電流供給能力については、その概念自体を私が提案しましたが、これはNautilus 801/Signature 800が動機となっています。HDAM-SAもそうですね。

 

●スピーカーが変わるからアンプが進化する、とも言えるのでしょうか。

澤田:アンプの役割って実は全然たいしたことなくて、簡単に言えば入ってきた電気信号を大きく増幅するだけなんです。入ってきた信号と相似の信号を、必要なだけ増幅して出力するのがアンプの仕事です。ではアンプが進化するには何が動機になるのかと言うと、一つは入力ソースの進化です。
たとえばモノーラルからステレオへ、CDになってワウ・フラッターやスクラッチノイズから解放され、SACDやDVD-Aで広帯域、高ダイナミックレンジになる。ハイレゾではそれがさらに進みます。このように入力ソースが進化すると入ってくる信号の質が変わります。アンプに入る信号の帯域が広がり、ノイズフロアが下がりモノーラルの時には存在しなかったチャンネルセパレーションが問われるようになる。
そしてもう一つがスピーカーの進化です。入ってきた電気信号をアンプで正確に増幅できたとしても、アンプから出た信号がそのまま音になるわけではありません。スピーカーをきちんとドライブして初めて音になるんです。ところがスピーカーはアンプを測定する際に使うような純抵抗ではないので一筋縄ではいかない。周波数でも音量でも変化する相手を、うまくドライブしなければいけない。
スピーカーというヤクザなものを繋いだ途端に、腰砕けになってしまうこともよくあります。B&Wのようにスピーカーがどんどん進化すれば、アンプもそのために進化しなくてはいけません。それがアンプの開発の動機になります。

●B&Wの進化はマランツのアンプの進化にも大きく寄与しているわけですね。

澤田:はい。しかもB&Wのモニタースピーカーは世界中で年々高く評価されていったわけですが、私たちはディストリビューターですからその進化をいち早く手中にできるわけです。世界で最先端のスピーカーがいかなるもので、プレーヤーやアンプにどんな性能上の要求をするのかがいち早く分かる。
それをすぐさま開発のターゲットにできます。B&Wは今やモニタースピーカーのリファレンスですから、どのメーカーも目標にしていると思いますが、たとえば他のメーカーであれば、まずB&Wの新製品が出てから導入までに数年かかり、そこからの開発となります。
しかし私たちは、どこよりも早く最新型に切り替わる。その時間差は大きいですね。

 


↑マランツの製品開発用試聴室。リファレンススピーカーはB&Wの800D3

 

マランツもB&Wも、目指しているのは「原音再生」

 

●お話をうかがって、マランツとB&Wの関係性は本当に深いものだと思いました。

澤田:まぁ彼らはイギリス人だから自分たちが一番偉いと思っているんで、あまりマランツから教えてもらっているっていう気持ちはないのかもしれないけど(笑)。
でも、困ったら聞いてきますし、あるコンデンサーが入手できないからサポートしてくれ、などというやりとりも日常的に行っています。ですから普通の輸入代理店が単に製品を仕入れて売る、というレベルとは全然違ってはるかに深い関係です。お互いに信頼し、切磋琢磨する関係だと言っていいでしょう。

●ある種の緊張感を保った切磋琢磨する関係で、26年間続くのもスゴイですね。

澤田:確かにオーディオの業界では、世界的に見てもこれだけの長期間に亘る関係は少ないです。実は「代理店10年の法則」っていうのがあるんです。これはビジネスが拡大してうまくいったら自前でやろうとするでしょうし、うまくいかなかったら当然もっといいところを探そうとする。良くても悪くても10年ぐらいで関係が終わるのが普通なんですね。B&Wも私たち以前の輸入代理店とは10年程度で別れてきました。
でも私たちはお互いに補い合えるところは補い合って、直接的なビジネス以外にも関係を保っていくことで長くつきあえるということに気づき、それを実践してきたわけです。

 

●長年コラボしていることは、マランツとB&Wはお互いのブランド価値の増大に大きく寄与しているように思います。

澤田: B&Wには、常々、単なるスペック競争や目立つフィーチャーではなくて、オーディオの本質を追求してほしいと思ってきましたし、彼らは実際そうしてきました。
一方でマランツも、本質を追求してHi-Fiの開発をすすめてきました。マランツとB&Wのコラボレーションはオーディオの世界ではすでに定着していますので、相互にとってプラスになっていると思います。

●「オーディオの本質」とおっしゃいましたが、目指すところが似ているからこれだけ長期間いっしょにやってくることができた、とも言えるのでしょうか。

澤田:ブランドが違いますから、サウンドのフィロソフィーはもちろん全く同じではありません。
ただ方向性についていえば、マランツもB&Wも言葉にすれば「原音再生」です。B&Wの創業者であるバウワーズさんの言葉が残っているんですが「多くを与えてくれるスピーカーではなくて、失うものの少ないスピーカーを作りたい」。本来ある音を全部再生したい、でもそれは無理なので、とにかく失うものが少ないようにしたい。つまり「スピーカー独自のキャラクターを持たせるべきでない!」と言っているわけです。
またマランツのスタートではいろいろなところで言われるように、「音楽再生の限界を押し進め限界点を見直す」というもので、これは「何も引かない何も足さない」、「録音媒体に記録されている信号をできるだけ忠実に再生する」、ということ。両社の音に対するコンセプトはかなり近いものだと言えるでしょう。だからここまでの長い間、信頼関係を保ってこられたのだと思います。

●今回は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。

 




B&Wとマランツとのリレーションシップのお話はいかがだったでしょうか。最初はB&Wからの申し出を断ったところから始まった関係ですが、切磋琢磨を続けることで今やオーディオの世界では並ぶものがないほど長く、緊密な関係となったことがよくわかります。当時のことを知る澤田さんに語っていただいたストーリーは、まるでドキュメンタリー番組のようでした。

2019年4月19日​​​​​​​​​​​​​