AudioQuest、ケーブルに込められた独自技術と魅力


AudioQuestはオーディオとビジュアルの両分野で世界をリードするケーブルのブランドです。
マランツは2003年よりAudioQuestの輸入代理店業務を行っており、マランツの試聴室でもAudioQuestの製品を使用しています。今回はD&M Holdingsシニアサウンドマネージャーの澤田龍一とインポートブランドグループの狩野徹也が、AudioQuestの特長や魅力について語ります。

D&M Holdingsシニアサウンドマネージャー 澤田龍一(写真右)
同 国内営業部インポートブランドグループ 狩野徹也(写真左)


ケーブルの重要性をいちはやく見抜き1980年からケーブル製作を開始


●まず背景としてですが、オーディオの世界でケーブルはいつ頃から注目されるようになったのでしょうか。

澤田:最初は1970年代でしょうか。でも当時はまだケーブルは太ければいいとか、外来ノイズを拾うので、シールドが強化されているのがいいといったような、音質とは直接関係のない話がほとんどでした。その後のステップがあったのが1980年代で、導体の銅線にOFC(Oxygen-Free Copper:無酸素銅)が使われるようになったころでしょうか。その銅線の純度が高い方がいいとか、銀線がいいとか、アルミ線がいいとか、メッキ線がいいとか、そういうものが注目されはじめます。とはいえ、1990年ぐらいまでは大学の先生などに「データとしては変わらないから、オカルトだ!」と本に書かれたりしていました。今ではもう、そんなことを言う人は、オーディオ業界にはほとんどいませんけどね。

D&M Holdingsシニアサウンドマネージャー 澤田龍一


●AudioQuestはケーブルの世界でどうやって評価を集めたのでしょうか。

澤田:AudioQuestの創業者はビル・ロウというアメリカ人ですが、彼は1978年にオーディオ販売を始めて、1980年に会社を作ります。彼はほかの人がケーブルに注目する以前からケーブルで音が変わることを経験的に知っていて、いろんなテストをしてはケーブルを作り、販売するようになります。ビルは技術者ではないので、素材のことや構造を物理的に理解しているわけではないと思いますが、オーディオの感性が非常に鋭く、独自の嗅覚を持っていたのでしょう、AudioQuestのケーブルは音が非常に良かった。それで評価を集めました。その後、今に至るまで導体や絶縁体、あるいは太さ、構造、端子、接続方法などのケーブルの要素を、その時代時代で試しては製品化することを繰り返し、オーディオケーブルの世界で非常に高い評価を得ています。

AudioQuest 日本公式ウェブサイト


●AudioQuestのケーブルはどんな点が優れているのでしょうか。

澤田:「ケーブルで音は変わる」。これは事実です。ただ変わり具合が独特なんです。CDを再生したとき、基本的な音を決めているのはCDプレーヤー、アンプ、スピーカーなどのオーディオ機器であって、ケーブルはこれらを単純につないでいるだけの存在です。ですから本来ケーブルというのは接続するためのもので、ケーブルを使うことによって情報量が増えるわけはありません。むしろなんらかの損失が起きるわけで、AudioQuestのケーブルはその「損失」をいかに少なくするかに注力しています。これはケーブルとしてとても健全な考え方です。
世の中には「音が良くなるケーブル」と呼ばれるものがあります。そういう音が好きな人にとってみれば、音が良くなったと思うかもしれない。それは、ある聴き手にとって好ましいキャラクターを持っているわけですから、何らかのキャラクターを加えているケーブルです。でも、それはケーブル本来の役割ではないと私は思っています。


2003年より日本ではマランツがAudioQuestのケーブルの扱いを開始


●2003年からマランツが日本での輸入代理店業務をはじめました。マランツが代理店になってからAudioQuestは売れるようになったのでしょうか。

澤田:マランツがAudioQuestの輸入代理店になったのは経営陣の判断ですが、私はAudioQuestのケーブルをそれ以前から評価していましたから、よいことだと思いました。そして実際にAudioQuestはよく売れたんです。それまでの何倍ではなく桁一つ上がったくらいに。

狩野:そうですね。AudioQuestはデジタルケーブルも作っていますが、タイミング的にも2003〜2005年頃はHDMI、USB、映像系のケーブルなどの需要が高まった時期で、AudioQuestを扱うようになったタイミングがちょうどマランツの製品と絡みましましたので、売上はかなり増えました。

D&M Holdings国内営業部インポートブランドグループ 狩野徹也


●マランツブランドとの相乗効果はあったのでしょうか。

狩野:ありました。オーディオケーブルはもちろんですが当時のマランツはプロジェクターやDVDプレーヤーなどの映像系機器もやっていたので、映像に特化したケーブルを扱えたのが相乗効果となり、セットでご提案できたという経緯があります。プロジェクターを使うとHDMIケーブルを壁の中に通しますから、10メートル以上の長さになることも多く、結構な売上になりました。


●AudioQuestのケーブルはマランツの試聴室でも使われていますね。

澤田:使っています。もともと私たちが使い始める前からB&Wが試聴用にAudioQuestを使っていたんですよ。私がマランツの試聴室で使ってもいいなと思った理由は、AudioQuestが電気的に素直なケーブルだったからです。ケーブルで音を変えようという気はまったくない。マランツも、そしてB&WもリファレンスとしてAudioQuestのケーブルを使っていたのは、「ただひたすら損失を最小限に抑える」というビルの思想の健全さを評価したからだと思います。

マランツ試聴室でのケーブルにはAudioQuestのものが使用されている


電池を搭載したケーブル、DBS(誘電体バイアス・システム)について


●2003年からAudioQuestを扱ってきてこれまでにどんな進化がありましたか。

澤田:AudioQuestに関して言うと、非常に大きなジャンプだったと思うのが、バッテリーを使ったケーブルDBS(ダイエレクトリック・バイアス・システム)のシリーズです。

DBSを採用したAudioQuestのケーブル


●なぜケーブルに電池が必要なのですか。

澤田:分かりやすく言うと、ケーブルには交流の電気を通すためにプラスとマイナスの2本の線があって、その間にショートしないように絶縁体が入っています。その絶縁体は厳密に言うとわずかにコンデンサー的な性格があって、信号電圧によってチャージされます。音楽信号は交流ですから、プラス/マイナスがしょっちゅうひっくり返るわけです。そうすると絶縁体にかかっている電圧がひっくり返る時にゼロクロスのところでノイズが発生する、つまり歪みが発生します。だったら絶縁体に音楽信号より高い電圧の直流をかけてしまえばいい。そうしたらプラスとマイナスはひっくり返らないじゃないですか。

●導体の外側の絶縁体に直流の電圧をかけるということですか。

澤田:AudioQuestの高級ケーブルは導体を円周状に配置しているものが多いのですが、製造上それらを安定して配置するために中心にスペーサーを入れているんです。そのスペーサーの代わりに電線を入れて、その真ん中の電線と外周のシールドとの間に直流電圧をかければDCバイアスになる。つまり「信号導体には全く働きかけずに信号導体の周囲の絶縁体を安定させることできる!」と、ビル・ロウが考えついてやってみたら非常に効果があったわけです。そしてこれは画期的な構造だということでAudioQuestが特許をとりました。

BSユニットと中に入っている乾電池


●実際に聴いてみてDBSの効果は高かったのですか。

澤田: 2004年にビル・ロウが12Vのバッテリーを使ったDBSを持って説明しに来たんです。「これ、すごくいいんだよ」と。聴いたら確かにいい。そのとき私は「バッテリーの種類を変えたら音が変わるかもしれない」「インターコネクトケーブルなら信号電圧はP-Pで3Vくらいだけれど、スピーカーケーブルでは音量を上げるとすぐに30Vぐらいになるので24Vじゃ足りないんじゃないか」と言ったんです。ビルはその時は「そんなことありえない」と言っていたけど、当初12Vだったものが年々電圧が上がっていって、今は36V〜72Vにまで上がっています。

DSBのユニット。左側から36V、48V、そして現在の72V

誘電体バイアス・システム:DBSについては詳しくはAudio Questのウェブサイトをご確認ください。


デジタル時代に対応したノイズディシぺーション(消散)システム


澤田:それと近年の進化といえば、AudioQuestが積極的に取り組んでいるのはノイズ対策です。ビル・ロウがケーブルを作り始めた1980年代は、高周波のノイズはまったく気にしていなかった。というのもビルいわく、当時はまだ携帯電話がなかったし、そこら中にギガヘルツの電波が飛んでいるなんてことは全くなかったと。でも今はたくさんノイズ源となる高周波が飛び交ってますから、ノイズ対策は必要です。AudioQuestは2002年ぐらいからノイズ対策を開始し、現在のAudioQuest製品にはノイズに対して非常に厳重な対策が施されています。

狩野:彼らはそれをNDS、ノイズ・ディシペーション(消散)・システムと呼んでいます。


●ノイズ対策とは具体的にはどんなことをしているんですか。

狩野:導体の線材は銅なんですけど、導線の表面を銀でコーティングしてシールドする、あるいは中の導体を銀線にすることでノイズを低減しています。特にHDMIなどのデジタル伝送ケーブルは高速伝送しますので、そこに対しての外来ノイズを抑え込むに、銀のコーティング量を0.5%、1%、1.5%と増やしたり、シールドを何重にもしています。

澤田:導線を銀線にして、なおかつ周りに銀のシールドをすることによって高周波でのインピーダンスを下げ、最上級の映像と音が再生できるというのが彼らの発想です。さらにそこにカーボンを入れてノイズを熱に変えて消散させるんです。


●カーボンでノイズを熱にする?

澤田:シールドでは外来ノイズをシャットアウトします。でもいったん侵入してしまったノイズや、自分が出しているノイズは、カーボン、つまり電気を通す物質の粒を振動させることで熱に変換させてノイズを消散させるんです。ですからケーブルの中のカーボンはびっちり固まったベルトになっているわけではなく、つぶつぶがランダムに動く状態になっています。まあ、カーボンの粉ですね。


ノイズ対策を強化した低域専用のケーブルFIREBIRD BASS


●低域専用のスピーカーケーブルも昨年リリースしていますね。

狩野:昨年の5月に低域専用のスピーカーケーブルを出しました。もともとFIREBIRD ZEROというケーブルがあって、これはフルレンジ、つまり全帯域をカバーできるスピーカーケーブルですが、それと併用する低域用のケーブルとしてFIREBIRD BASSが出ました。高域用にZEROを、低域用にBASSを使うことで、Wi-Fiや携帯電話などによるノイズがたくさんある劣悪な状況でもノイズを最大限に低減させます。

右がFIREBIRD ZERO、左が低音専用のFIREBIRD BASS


澤田:ノイズ対策によって高い周波数のノイズをどんどんカットしていくと、可聴帯域にも影響が出てくるんです。音も変わってくる。ですから通常は可聴帯域に直接影響が出ない範囲でカットします。ただ空間のノイズ状況はWi-Fiや携帯電話などにより年々悪化しています。高音域に影響がでるほどノイズ対策を強化しても低音専用にすれば問題ないというのがFIEEBIRD BASSの基本的な考えです。
ただ、今までバイワイヤー接続は、違う種類のケーブルでやるとうまくいかなかった。ケーブルのキャラクターが違うので、高域と低域が分かれて聴こえるんですね。でもAudioQuestのFIREBIRD BASSはうまくいっている。成功していると思います。


AudioQuestはエントリーモデルもお勧めできるケーブル


●AudioQuestの魅力はどんなところにあるのでしょうか。

澤田:ひとつは、創業者であるビル・ロウの個性でしょう。彼と初めて会ったときに驚いたのは、ケーブルについて5時間も6時間もしゃべるんです(笑)。「99.99999パーセントの銀というのは、例えて言えば深い森のようなものです」などと物語が始まるわけ。私なら線材がなにで、絶縁が何で、コネクタがどうなっていて、というふうに10分ぐらいで説明が終わっちゃいます。 それと、AudioQuestはこれだけ大きい会社になったのに、製品の名前をビル・ロウが全部自分で決めないと気が済まない。さらにパッケージの画まで自分で描くんですよ。彼は世界中を旅して歩いて、みんなの話を聞いて回っているので、ホテルでパッケージの画を描いてくれないことには、ケーブルそのものは完成していても製品にできない。

狩野:パッケージデザインができないので発売が半年遅れたという話はよくありますね。

AudioQuest創業者 ビル・ロウ (AudioQuest公式ウェブサイトより)


●ガレージメーカー的なスピリットを今も色濃く持っているということでしょうか。

澤田:ガレージ時代そのままです。それをずっと変えない。そこがある意味で個性になっている。


●AudioQuestは非常に高価なものから、お求めやすいものまで価格帯に幅があります。すべての製品に共通するコンセプトはあるのでしょうか。

狩野:AudioQuestの製品は数千円のものから数百万円のものまで幅があります。マランツには3、4万円のアンプもラインアップしていますが、それらの製品と組み合わせられるケーブルもラインアップしていて、たとえばこのEVERGREENは1メートル3600円のアナログRCAケーブルです。

澤田:フラッグシップのケーブルは、我々にはこれだけの技術がありますよ、ここまでのパフォーマンスが出せますよというデモンストレーション的な意味もありますが、AudioQuestの良さは普及価格帯のケーブルであってもフラッグシップの思想をしっかりと引き継いでいる点にあります。

EVERGREENシリーズ


●エントリーモデルでもAudioQuestらしい音がするということでしょうか。

澤田:ケーブルのグレードで損失の量が変わる、でも音のバランスは変わらないとういことです。 彼らはグレードの違いをガラスに例えて説明しています。ここに楽譜があるとします。高価なケーブルはロスが少なく情報量が多い。それは非常にクリアなガラスを通して楽譜を見ているようなもので、細部までよく見える。そしてだんだんグレードが下がると透明度が下がりガラスが曇ってきて細かい部分が見えづらくなる。しかし色がつくことはないので音のバランスは崩れない。
一方、出来の悪いケーブルは、透明度が低いだけでなくガラスに色がついしまう。例えるなら、楽譜が赤っぽくなったり黄色っぽくなったりしてしまうものがあるんです。でもAudioQuestの場合は、色は付きません。音のバランスは変化しない。ただ透明度だけがだんだん曇ってくるというわけです。ビルはこういう説明が上手い!

ケーブルによる効果の違い(AudioQuest公式ウェブサイト)


●ハイエンドなケーブルだけでなく、この記事を読んで初めてケーブルの交換をしてみようと思ったケーブルビギナーの方にとっても、AudioQuestはお勧めできるのでしょうか。

狩野:マニアックなお客さまにとっては、自分でケーブルを選ぶことは楽しみの一つですが、ビギナーのお客さまだと、何を選んでいいかわからないということもあるでしょう。マランツのオーディオ機器にB&Wのスピーカー、そしてAudioQuestのケーブルをつないでいただければ、クリアな音が出ますので私たちはAudioQuestのケーブルをお勧めします。

澤田:以前マランツブログでB&Wのお話しをしましたが、B&Wの創業者が「多くを与えてくれるスピーカーを自分は好まない。損失が少ないもの、失うものが少ないスピーカーを作りたい」と言いました。マランツも同じです。そしてAudioQuestもできるだけ損失の少ないケーブルを目指している。ですから、マランツのオーディオ機器と、B&WのスピーカーをAudioQuestのケーブルをつなぐと、特にすごい音はしません。普通の音です。実はそれが一番難しいんです。


インタビュー後、AudioQuestのケーブルをいくつか試聴をさせていただきました。グレードごとの違い、そしてバイワイヤーでの低域用スピーカーケーブルなどを実聴すると、アンプやプレーヤーを入れ替えるような大きな違いではありませんが、サウンドの見通しがクリアになったり曇ったりという違いを感じ、「ガラスのクリアさ」の比喩を実感できました。ケーブル交換はお手持ちのオーディオで比較的簡単に試せるアップグレードですので、ぜひ一度AudioQuestのケーブルをお試しください。


2020年8月25日