マランツ「リ・デザイン」、そして30シリーズデビュー


マランツは2020年9月、製品デザインやロゴ、ウェブサイトなどを一新する「リデザイン」を行い、その第一弾としてSACDプレーヤー「SACD 30n」とプリメインアンプ「Model 30」を発売しました。今回は全く新しいデザインとなった30シリーズのデザインコンセプトや機構について、プロダクトデザインを担当した鈴木丈二、機構を担当した上川太一に話を聞きました。

ディーアンドエムホールディングス インダストリアルデザインリーダー 鈴木丈二
同 グローバルプロダクトディベロップメント プロダクト エンジニアリング 上川太一


プリメインアンプ MODEL 30


ネットワーク SACD プレーヤー SACD 30n


黄金分割の螺旋カーブをモチーフにしたパターンをフロントパネルに使用


●鈴木さん、まずマランツの「リ・デザイン」について教えてください。

鈴木:マランツが現在のデザインになってすでに10年以上を経ていますが、今回のリデザインは、これまで培ってきたマランツの伝統的なデザインを、もう一度現代的に解釈してリニューアルしたものです。デザインのリニューアルに関しては製品デザインのみならず、ロゴ、パッケージ、ウェブサイト、カタログなど全てのコミュニケーションツールが変わります。あわせてキャッチコピーも今までの「because music matters」から「Modern Musical Luxury」へと変更となっています。

インダストリアルデザイナー 鈴木丈二


●このたび発売されたMODEL 30シリーズはマランツのリデザインを体現するモデルとなるわけですが、製品デザイン上の特徴はどんなところにあるのでしょうか。

鈴木:まず最大の特長はフロントパネルの両端にある波紋のパターンです。このパターンはある螺旋のカーブをモチーフにしたもので「Modern Musical Luxury」にふさわしい美しさを視覚化したものです。

●正面中央のフラットなパネルとのコントラストが印象的です。

鈴木:センターパネルはテクスチャーもナシ地で両サイドのパターンとの対比を出しています。また両端のパターンを引き立てるために、センターパネルの両側にはライトが入っています。
また両サイドとセンターパネルの関係は、従来のマランツデザインの3分割のフィロソフィーの継承でもあります。スタイルや仕上げは変わりましたが、マランツの根幹にある考え方は引き継がれています。

↑従来デザインのフロントパネルの「3分割」のコンセプトはリ・デザインでも引き継がれた。


無段階で直線との境界が見えないG2アールという繊細な曲面を採用


●柔らかい波紋の印象もあり、全体的にこれまでの直線的なデザインより「繊細さ」を感じます。

鈴木:製品のエッジ部分の印象が違うのが効いていると思います。いままでのマランツ筐体は比較的エッジがあるシャープな造形でしたが、30シリーズの筐体のコーナーには、「G2アール」という曲面が滑らかに見える特殊なアールを採用しました。通常のアールは曲面と平面の境界が見えますが、G2アールはこの境界が見えないアールで、造形的にも複雑で手間がかかっています。それにより繊細で柔らかな雰囲気が出せていると思います。

●G2アール以外ではどんな点を工夫しましたか。

鈴木:センターパネルの照明の処理ですね。波紋のパターンがうまく光と影で浮き出るようにライトの照度や角度を細かく調整しました。このあたりは何度も繰り返し検証しました。
そのほかにも、今回はロゴやフロントパネルのナシ地の仕上げの精度に至るまで、すべて刷新しています。デザインの作業量は通常のモデルよりはるかに多かったです。


Modern Musical Luxuryの美しさは、細部に宿る


●ここからはMODEL 30の機構を担当した上川さんにお尋ねします。まず「機構」のお仕事とはどんなことなのでしょうか。

上川:鈴木がプロダクトデザインの絵を描きます。それを実際に部品ベースに落とし込んで、どう組み上げていくのかを考える。たとえば人間で言えば、鈴木が人間の絵を描くわけです。私がその絵から実際に中の骨や筋肉の付け方を考えて、実際に動くように組み上げていきます。

グローバルプロダクトディベロップメント プロダクト エンジニアリング 上川太一


●それって、すごく大変じゃないですか! 鈴木さんが好きにデザインした絵を、それを実際に製品として作ってね、ってことですよね。

鈴木:はい(笑)。

上川:そうです(苦笑)。

●たとえば今回のフロントパネルなどは、かなり泣かされたところですか。

上川:フロントパネルの模様と、センターパネルが浮いている部分ではかなり苦労しました。

●フロントの黄金比螺旋のパターンは金型で作るのですか。

上川:このパネルは樹脂製なので金型にこの模様を削っています。ただ実際にこれだけ複雑で繊細な模様がどの程度きれいに作れるのかは経験値がありませんでしたので慎重に検証しながら進めました。

鈴木:上川さんは金型屋さんにしょっちゅう行ってたよね。

上川:行きました。仕様はデータで金型の製作工場に渡しますが、MODEL 30のような繊細な模様は数値だけでは示せないので、実際の仕上がりを目で確認する必要がありました。

●こんな複雑な螺旋の模様は見たことがないんですが、「本当にできるんだろうか?」という気持ちはありませんでしたか。

鈴木:正直ありました(笑)上川を前に言うのは気が引けますが……。もちろん理論上はできるはずなんですけどね。

上川:本当に検証の繰り返しなんですよ。これでできるのか、できないのか。できないならどうすればできるのか。デザイナーの意図を理解し、実際に作れるように調整を繰り返ことに尽きます。結局私の仕事はデザインを形にしないと評価されませんから、やはりものにはしないと。あと、このデザインに行き着くまでの多くの検討と議論を繰り返していたので、どうしても完成させたい気持ちがありました。

●G2アールについては、実現化は難しかったんですか。

上川:アールに関しての鈴木の指示は非常に緻密でした。今までのアールはカーブの大きさだけの指示でしたが、G2アールは、カーブの細かいつながり方まで鈴木の指示があり、今までとは全然違うものだったので大変でした。

●やはり細部までこだわることは大切なのでしょうか。

鈴木:「Modern Musical Luxury」のラグジュアリー感、繊細な美しさを実現するためにはそこまで必要でした。やはり美は細部に宿ると思います。


ゼロベースだからシャーシ、ブラケット、ネジにまで踏み込むことができた


●上川さん、機構として今回特に大変だった部分はどんなところでしたか。

上川:今回のリデザインに伴い既存の構造部品を流用できないため、新規で構造部品を作成する必要があり、そこが大変でした。

●今回機構としてこだわった部分はありますか。

上川:新規に構造を設計することは大変ではありますが、チャンスでもあって、ゼロから製品の構造を見直せる機会になります。特に私が重視したのは、本体の下の部分、シャーシですね。ここにすべての部分が載りますので、ここが構造の要でもあります。

●製品の下部なので見えませんが、シャーシは土台であり、基本ですよね。

上川:そうなんです。音響機器は膨大な部品の組み合わせで、振動する部品も多く、シャーシが弱くてねじれたりすると、いろいろな所に歪みが出てきますし、それがほかの部品へのストレスにもなります。マランツの構造設計のフィロソフィーの中でシャーシの強度、剛性は非常に重要であり、音質にも大きく影響するため、シャーシに関しては妥協せずに徹底的にこだわりました。

●シャーシは厚さや剛性が大事なのでしょうか。

上川:大事ですね。今回はフラッグシップモデルの厚さのシャーシを採用しました。またシャーシ同様にブラケットにもこだわりました。

●ブラケットとはなんですか。

上川:ブラケットは部品を固定するための金具です。SACDドライブや電源トランスを直接シャーシに固定できない場合は、ブラケットを介してシャーシに固定します。今回はこのブラケットとシャーシの接合部分を更に強化しました。いくらシャーシやブラケットを剛性高く設計しても、それらの接合部分が弱いと、部品が持つ剛性を生かすことができず、SACDドライブやトランスの振動を抑え込むことができません。接合にはネジを用いますが、今回は従来製品より大型のネジを採用し防振対策を強化しています。


ネットワーク SACD プレーヤーSACD 30nの内部


●従来のシャーシではネジを大きくできなかったのですか。

上川:この方法は音質に大きく関わるので、以前からマランツのサウンドマスター尾形と検討は重ねていました。ただ従来のシャーシやブラケットでは、既存部品の金型を変更する必要があり、また構造上大きくしたネジが他の部品に干渉するなどの問題もあり実現できませんでした。

●今回30シリーズはゼロベースで設計されたので、シャーシ、ブラケット、そしてネジの大きさまで踏み込めたということですか。

上川:そうです。30シリーズでは金型を作るところからスタートできたので、構造も部品選定もゼロからはじめられる。これはめったにないチャンスだと思い、今の私が持っている技術、マランツで蓄積された技術、尾形が考えていることを含めて、すべてをこの製品に入れ込みました。


マランツは、リスクをとってチャレンジができるブランド


●今回リデザインの最初のモデルとして30シリーズが登場したわけですが、ここに至るまでのデザインアイディアはどのくらいあったのですか。

鈴木:企画が立ち上がったのが2017年で、デザイン開発したものは、たくさんありますが、デザイン画は7〜80枚は描いたと思います。最後は3種類の案を作ってそこから最終的に今のデザインになりました。

●お話を聞く限り、大変そうですね。

鈴木:大変でしたが、やりがいはありました。実際のところ、数あるオーディオ製品でもフロントパネルにこのようなパターンを入れた製品デザインはあまりないと思います。マランツブランドにふさわしい、独自性の高いデザインを実現できました。
ですが、それを製品にするのは上川です。上川は大変だったと思います。

上川:鈴木の苦労も大きかったと思います。実際に設計部門に意匠仕様が来るまでに採用されなかったデザインもいくつも見ていますし、新たなデザインが市場に受け入れられるかの不安もあったと思います。

●30シリーズはかなり斬新でチャレンジングなデザイン変更でしたが、発表の時はドキドキしましたか。

鈴木:かなりドキドキしました。でも結果的にポジティブな反応のようでよかったです。

上川:私も安心しました。

今日はありがとうございました。


マランツのリデザイン、そして30シリーズのプロダクトデザイン、機構のお話しはいかがでしたか。新デザインの螺旋カーブとそれを照らすライトの美しさは、なかなか写真では伝わりにくいところ。その美しさとサウンドを、ぜひ店頭でお確かめください。


2020年11月20日